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No.1プレゼンター ~発表できるんです~

No.1プレゼンター ~発表できるんです~ 【発表編】 第4回

第4回 初めての学会発表で失敗しないために

発表編では、実際にプレゼンテーションをする際のノウハウを、経験豊富な先生方から発表のタイプ別にご紹介いただきます。第4回となる今回は、学会発表未経験の後期研修医の先生方を対象に、順天堂大学医学部附属順天堂医院の根岸 貴志先生から、初めての学会発表で失敗しないためにおさえておくべき基本事項とポイントを教えていただきます。

著者根岸 貴志先生順天堂大学医学部附属順天堂医院
<著者プロフィール>
根岸 貴志先生

順天堂大学医学部附属順天堂医院

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※2021年11月現在
研修医の皆さんが眼科専門医を目指す場合、学会発表は避けて通れません。日本眼科学会が定める「眼科専門医の資格取得のための研修カリキュラム」には、「眼科に関する論文を、単独または筆頭著者として1篇以上、及び学会(集談会等を含む)報告を演者として2報以上発表」と記されています。初めての学会発表となるとプレッシャーを感じるかもしれませんが、十分な準備をして臨めば大丈夫です。ここでは症例報告の口演発表を想定し、基本的な事項をお伝えします。

I. 発表学会・症例選び

1.発表学会の選び方

数年前までは、学会発表に伴う楽しみとして、温泉や景勝地がある、行ったことがない、など“小旅行”ができることも加味して選ぶことができました。しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、地域の学会を選ぶことが多くなるでしょう。初めての発表の場合は、ご自身の医局から参加者の多い地方会が登竜門です。

なお学会選びの必須条件は、「指導医が発表に同席できること」です。WEB開催の場合は、ご自身の発表時間に指導医の外来時間などが重ならないように注意しましょう。

2.症例の選び方

初めての発表で統計解析やメタ解析などを任されることは少なく、症例報告から学ぶことが多いと思います。症例の選び方は、①珍しい症例、②ありふれた疾患でも一般的な治療法では治癒しなかった症例、の2通りが基本となります。①には発表しやすいという利点がありますが、専門医の観点からは珍しくないと言われて調査不足を指摘されるかもしれません。②は、幅広い関連文献の調査など勉強すべきことが多く、聴衆は珍しい経過を辿るありふれた疾患の存在を知るとともに、発表者の入念な下調べを評価してくれることが期待できます。

II. 学会発表の準備

発表したい学会が決まったら、準備に入ります。その際に重要なのは、提出物の締め切りを確認し、指導医の都合に配慮した余裕をもったスケジュールを組むことです。最初は何にどれくらい時間がかかるか想定しづらいかもしれませんので、スケジュールの組み方も含めて、早め早めに指導医に相談しましょう。

1.学会規定に沿って抄録を作成

学会のホームページで演題登録の規定を確認し、演題登録をします。表に、日本弱視斜視学会の事例を示します。
医局の先輩医師が過去の抄録集を持っていると思いますので、それを参考に、抄録の形式や体裁を整えます。発表したい症例と似た内容の抄録を探して真似するとよいでしょう。

抄録作成の際に重要なのは、関連論文をPubMedなどで徹底的に調べること、科学的な視点でストーリーを展開すること、の2点です。そして、聴衆に伝えたいことは何か、それは聴衆にとって新たな知見となるか、という観点で作成した抄録を見直してみてください。困ったことがあれば、指導医には遠慮せずに相談しましょう。私は、聞きに来る回数が多いほうが指導しやすいと感じています。

2.スライドの準備

抄録を提出してしばらくすると、採択の連絡が来ます。提出から期間が空いてしまうので、実際の発表スライドを用意するときには、もう抄録の内容を忘れていることがあります。もういちど抄録に何を書いたのか改めて確認しましょう。

発表スライドの基本構成や作成のコツについては、「準備編」や「発表編第1回」をご参照ください。スライドの文字数は極力少なくすることと、発表で述べる事項をなるべくスライドに記載しておくことをおすすめします。発表スライドは、指導医だけでなく、共同演者全員の確認が必要ですので、時間に余裕を持って作成しましょう。

3.読み原稿を用意し、入念に練習

発表のときに一番重要なポイントは、読み原稿を自分なりに完璧に準備することです。

 

読み原稿は紙に印刷します。スライド1枚につき1ページとし、文字の大きさは最小でも24ポイント、できれば36ポイント以上にします。演台に置いた原稿を立ったまま読める大きさが目安です。字体は判読しやすいゴシック体にしましょう。これらは私の失敗体験に基づいています。私は初めての学会発表の際、読み原稿をパワーポイントのノート機能で作成していたのですが、会場の演壇が思いのほか暗く、読み原稿の文字を判読できなかったのです。スライドを見ながらなんとか発表は終えたものの、焦ってしまい満足のいく出来ではありませんでした。


英語はカタカナに置き換えておくことをおすすめします。人の名前などの固有名詞、学術記号、単位、略号なども日本語に置き換えます。例えば、眼圧の単位mmHgは“ミリメートル水銀柱”といった具合です。アニメーションを使う場合は、読み原稿上に “(クリック)”などとアニメーションを開始するタイミングを文字で記入しておきます。


次のスライドに移行する場合も同様に、原稿に“(クリック)”と記載しておき、読み原稿とスライドがずれないよう注意しましょう。実は私も、読み原稿に集中するあまりスライドと原稿が1枚ずれてしまったことがありました。学会発表に慣れるまではこうした準備をしておくことを習慣づけたほうが失敗せずに済みます。単純な失敗をしないということは、聴衆に対する礼儀でもあります。


読み原稿が完成したら、音読練習に移ります。原稿を読み込み、暗記できればそれに越したことはありません。原稿の内容とスライドとのずれがないかを確認し、原稿を読みつつスライドを送る動作がスムーズにできるようになるまで、何度でも繰り返してください。練習は立って行い、原稿に目を落とすのは最小限にして、声に出して遠くに向かって話しかけるようにしてください。座って原稿だけを黙読しているだけだと失敗します。


制限時間をオーバーしてしまうのは最も避けなければなりません。早口でしゃべらないと時間に収まらないようなら、内容を削る必要があります。重要な点を強調するように話し、スライドの文字をすべて読む必要はありません。

4.予演会の活用

医局の医師と一緒に教授に発表スライドを1枚ずつ確認してもらうことを予演会といいます。通常は学会発表の1~2週間前に行います。


教授と医局員によりスライド1枚1枚がチェックされますので、学会発表本番よりも厳しい試練となります。発表内容の出来がよければ指摘された修正点を直せば済みますが、場合によっては全面的に作り直しを命じられたり、個別指導の対象になったりします。


予演会は、本番で出る質問とそれに対する答え方を訓練する場として重要です。発表者が想定していなかった質問が出ることが多く、本番用の想定問答に活用できます。学会発表の完成度を高め、想定質問に対する模範的な回答を準備するために極めて有用なのです。

III. 学会発表本番

1.目標は座長や聴衆から怒られないこと

初めての発表ですから、高い目標を設定する必要はありません。「座長や聴衆から怒られない」というささやかな目標を達成しましょう。ちなみに、規定の発表時間を大幅に超える、発表内容が貧弱、極めて初歩的な質問に答えられないようだと、真面目にやってないとみなされて怒られます。

実際には話し始めて10秒もしないうちに「この演者は発表初心者だな」と見抜かれてしまいます。座長も聴衆も、真摯に取り組んでいる発表初心者を優しく見守ろうという姿勢で臨んでくれますので、格好をつける必要はありません。練習どおりの発表を心がければ十分です。

2.発表本番

可能であれば学会初日から参加し、発表スライドのチェックインも初日に済ませてしまうとよいでしょう。発表前日は、指導医と一緒に発表内容と関連情報の最終確認を行い、時間が許す限り発表練習をします。


発表当日は、時間に余裕を持って会場入りします。登壇前に、指導医が座っている場所を確認し、マイクの近くに座ってもらうよう誘導できるとなおよいでしょう。発表中に助けが必要になった場合や質疑応答の際にすぐ対応してもらえる、という安心感が落ち着きにつながります。オンラインで発表する場合は、指導医に発表場所に同席してもらいましょう。


発表本番では、落ち着いて、練習どおりに、スライドとの一致を確認しながら用意した原稿を読みます。もし余裕があれば、スライド内のkey wordをポインターで指し示しながら話すという方法もよいと思います。


発表中に言葉に詰まってしまう、スライドが進んでしまって戻せない、緊張で頭が真っ白になってしまう、といったこともあるでしょう。その場合は、いったん止まっていいので、深呼吸をして落ち着きましょう。それでもダメなときは、座長に「共同演者の先生を呼んでもいいでしょうか」と助けを求める最終手段もあります。

3.質疑応答

発表が終わっても、まだ油断はできません。質疑応答があります。質疑応答は、その演題が終わってすぐに行われる場合と、何名かの発表が終わってからまとめて行われる場合があります。前者の場合の方が多いはずです。


質疑応答において大切なのは、質問なのか意見なのかを見極めることです。意見を述べたいだけの方もいらっしゃいます。意見に対して回答すると長くなってしまうことが多いので、「貴重なご意見ありがとうございます」とお礼を述べるに留めましょう。


質問の場合、質問内容を理解できなければ、「それはどういう意図のご質問ですか?」と説明を求め、その間に回答を考えます。「それはこういったことでしょうか?」と、準備してきた想定質問とその回答にすり替えて回答する、というテクニックも有用です。


自分が行った治療でない場合、例えば手術の質問が出た際には、「執刀医の●●が回答いたします」と答えます。余裕がないときや自分では回答できない場合「共同演者の●●から回答いたします」と応援を求める最終手段をとりましょう。


なお指導医によっては、質問される可能性が高い点を発表内容からあえて外し、質問を誘導できるように助言することもあります。予想どおりの質問が出たら、堂々と準備しておいた模範回答を述べましょう。

No.1 プレゼンターを目指す先生へ
「最初は自分の力を出し切るだけで十分」

初めての学会発表では誰もが多かれ少なかれ失敗を経験します。しかし、時間が経てば笑い話になることがほとんどです。試しに、皆さんの先輩や指導医の先生に「初めての学会発表はどうでしたか?」と聞いてみてください。きっと、失敗談を面白おかしく話してくださることでしょう。


失敗はステップアップのためのよい経験であり、その後の活かし方次第で“失敗”にはならない、ともいえます。また、初めての発表をやり遂げた成功体験とともに学会発表へのモチベーションを高めることに繋がります。何事も初めて行うとなるとプレッシャーがかかるのは当然で、初心者が素晴らしい発表ができるとは、実際のところ誰も期待していませんので、今の自分の力を出し切るだけで十分です。初めての試練を超え、経験を重ね、聴衆のニーズに応える発表を心がけていれば、多方面からの招聘にも繋がります。その端緒を今後に活かすべく、初めての学会発表に臨んでほしいと思います。

著者根岸 貴志先生順天堂大学医学部眼科学講座 准教授、順天堂大学医学部附属順天堂医院 眼科

<著者プロフィール>
根岸 貴志先生

順天堂大学医学部眼科学講座 准教授、順天堂大学医学部附属順天堂医院 眼科

2001年信州大学医学部医学科卒業。同年順天堂大学医学部眼科学講座、2005年埼玉県立小児医療センター眼科、2008年浜松医科大学眼科学教室を経て、Indiana University 小児眼科・斜視部門、Great Ormond Street Hospital for Children、Singapore National Eye Centreにて International fellowとして従事。2011年順天堂大学医学部眼科学講座 助教、2015年より順天堂大学医学部眼科学講座 准教授。2016年日本弱視斜視学会理事(現職)。

※2021年11月現在

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