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No.1プレゼンター ~発表できるんです~

No.1プレゼンター ~発表できるんです~ 【発表編】 第2回

第2回 ポスター発表の基本とコツ

発表編では、実際にプレゼンテーションをする際のノウハウを、経験豊富な先生方から発表のタイプ別にご紹介いただきます。第2回となる今回は、多数の学会発表や講演の実績をお持ちである東京歯科大学市川総合病院の山口 剛史 先生から、ポスター発表についての基本とコツを教えていただきます。

著者山口 剛史 先生東京歯科大学市川総合病院 講師
<著者プロフィール>
山口 剛史 先生

東京歯科大学市川総合病院 講師

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※2021年3月現在

これから初めてのポスター発表をする方や、ポスター発表の経験はあっても、改めてコツを知りたいという方が読んでくださっていると思います。私のこれまでの経験と、ARVO(The Association for Research in Vision and Ophthalmology)のプログラム委員をした経験を踏まえて、抄録とポスター作成の基本から質疑応答のコツまで、ご紹介していきます。

I. 事前準備

1.学会登録規定を熟読

学会のホームページに記載されている登録規定を熟読し、自分の発表内容が投稿規定を満たしているかどうかをしっかり確認しましょう。これは基本中の基本ですが、案外できていない人も多いのです。最初はだれでもわからないと思うので、わからなければ、指導医の先生に迷わずどんどん質問しましょう。


最近の傾向として、1~2例だけのCase reportや、倫理委員会未承認、Clinical trial未登録の発表を受け付けない学会が増えています。特に臨床試験の発表では、Clinical trialのWeb登録(日本ではUMIN;https://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)については厳しくチェックすることが抄録査読の段階で求められ、登録日より前に試験が開始されていたりすると、それだけで不採用となってしまいますので注意が必要です。

2.抄録作成でしっかりとデータを示す

ポスター発表に限らずですが、私が最も強調したいのは、抄録作成の段階から全力投球で取り組んでほしい、という点です。

 

「日本の眼科研究のレベルは国際的にも高い」という声を否定はしませんが、私がARVOのプログラム委員をしてきて感じるのは、日本人の抄録のレベルが諸外国と比べて高いとは言い切れなくなってきているということです。近年、中国や台湾、韓国などアジア諸国の発表のレベルが向上しています。抄録採択後、発表するまでにポスターを作成できるようにデータが揃っていればいい、という考えで書いた抄録では、査読の段階で高い評価を得ることは難しいでしょう。逆に、抄録の段階で優秀だと判断された研究については、ポスター発表であってもTravel award(渡航費用助成制度、Travel grantとも)が授与されることもあります。せっかく発表するならば、最初から全力で取り組んで高評価を狙ってほしいと思います。

 

全力投球で取り組むとは、「論文を執筆するくらいのつもりで抄録を作成する姿勢」です。通常の論文のAbstractよりも文字数を多く許されていますので、背景と仮説、方法、結果、結論をできるだけ具体的にわかりやすく記述するべきです。具体的には以下の5つに心がけることをお勧めします。まず、なぜこの研究をしたか、重要性を述べましょう。次に、今、何がわかっていて(What was known)、何がわかっていないかをはっきりさせましょう。3つ目は、仮説を明示し、だからこういうことを調べたという研究の目的をはっきり述べること。4つ目は、解析結果は具体的な数値を明記する、です。「視力は術前と比較して術後に有意に改善した(p=<0.05)」ではなく「視力LogMARは術前0.7±0.12から術後0.2±0.13に有意に改善した(p=0.012)」などと詳細な数値で示す、といった点を意識して抄録を作成してください。最後に、目的と結果、結論が一致しているか確認してください。これが意外にできていない抄録も散見されます。目的と結論が整合しているか、結論は結果を受けたものになっているかは大変重要なポイントです。

II. ポスター作成の基本とコツ

ポスター作成上の基本的な事項を含め、数あるポスターの中から注目してもらうポイントと、閲覧者に理解を深めてもらうためのポイントを、eポスターと通常のポスターそれぞれについてご説明します。

1.ポスターの基本要素と構成手順

ポスターに記載する基本的な項目は、抄録、背景、目的、方法、結果、結論、考察、謝辞、文献です。


全体の構成を考える際に、「仮説を明示する」ことを意識していただくといいと思います。日本人研究者の発表ではこの部分が見落とされがちなのですが、自らが立てた仮説を証明するための研究であり実験ですから、実は重要なポイントです。


背景で仮説を明確に示し、それを受ける形で目的を作成します。そして仮説と目的の答えとして、結果、結論、考察を作成しましょう。


この手順を意識して構成を考えていただければ、閲覧者が理解しやすいポスターの構成に仕上げられると思います。

2.ポスター作成上の工夫

閲覧者の目を引く上で、ポスターの見栄えもとても重要です。


eポスターの場合、PC画面上にポスターがずらりと並びますので、その中から選んでクリックしてもらう必要があります。私の視点ですが、注目されるeポスターは、美しいデザインやフォントが使われていたり、所属する研究機関のロゴが格好良くあしらわれていたりします(図1)。

(東京歯科大学市川総合病院 山口 剛史 先生ご提供ポスターより抜粋)

通常のポスターであれば一定のスペースがあるのでかなりの情報を入れることが可能ですが、過多になると見づらくなってしまいます。症例写真などは代表的なものを1~2点に絞り、症例全体のまとめは統計解析結果も交えて記載するようにします。


図表は重要なアピールポイントとなります。x-y軸の単位、p値の記入を忘れず、いくつも比較する群があるときは複数の色を使い分けるなど、理解しやすい図を心がけましょう(図4)。また、シェーマを効果的に使用することで、閲覧者の理解はより進むと思います。図2図3図5は、私が過去のポスターで実際に使用したシェーマの例です。参考にしてください。

テキストが長い場合は箇条書きを使い、文頭に番号を付与するのもよい方法。代表症例の写真と病態の仮説を図にすると、閲覧者がイメージしやすくなる。

(東京歯科大学市川総合病院 山口 剛史 先生ご提供ポスターより抜粋)

角膜移植の交換実験。マウスの種や週齢の組み合わせが複雑なときのように、言葉の説明では伝わりにくいときは、閲覧者にわかりやすいように、図にするとよい。

(出典:Yagi-Yaguchi Y, et al. Scientific Reports 2017)

(出典:Yamaguchi T et al. Sci. Adv. 2020; 6(20): eaaz5195.)

結果から考えられる病態の図を作成。Power Pointを使うと、様々な作図が可能である。グラフだけでは伝わりにくい病態のイメージを閲覧者にしっかり伝えよう。

(東京歯科大学市川総合病院 山口 剛史 先生ご提供ポスターより抜粋)

III. ポスター発表と質疑応答のコツ

1.ポスター発表時の心構え

ポスター発表成功のコツは2点、①入念な準備と練習、②必要な情報をポスターに盛り込んでおくこと、です。


特に初めての国際学会発表など、本番で緊張のあまり頭が真っ白になってしまうこともあるでしょう。その場合は、ポスターを読んでもらえば理解できる、ポスターに書いてあることを読み上げれば対処できる、くらいに作り込んでおけば、気が楽になります。


ポスターに情報を記載して、事前に十分に練習をしておけば、発表練習を積んでおけば、絶対にうまくいきます。


人前で話すのが苦手、国際学会で英語がうまく話せない、という方もいると思いますが(私も最初のころとても苦手でした)、ポスターをしっかり作り込んでおいて、発表の場では「伝わればいい」くらいの気持ちで臨めばいいと思っています。

2.質疑応答の対応

「学会に参加する最大の目的は会場で知り合った先生方とのネットワークの構築にある」と言っても過言ではないと思っています。ですから、自分のポスターに関心を示してくれる先生方とコミュニケーションをとれる機会はとても重要だと考えています。


国際学会では、著名なジャーナルの査読者を務めるようなKOL(Key opinion leader)がポスター会場を巡っていることが珍しくありません。彼らは気になるポスターを見かけると声をかけてきます。その質問が、後日論文を投稿した際の査読コメントそのままだった、ということもあります。こういった貴重な見解を得る機会を逃さないためにも、少なくともポスターセッションで定められた時間は、できるだけポスターの前にいるようにしましょう。


自分のポスターに関心を持ってくれた先生がいれば「Any question?」と声掛けしてみましょう。口頭でのコミュニケーションが難しい場合は、名刺を交換し、後で落ち着いてメール等でやり取りをすることも可能です。ポスターのハンドアウトを用意しておき、興味を持ってくれた閲覧者にプレゼンの最後に手渡すのもよい方法です(ポスターに自分のメールアドレスを記載して、A4サイズでカラープリントして興味を持ってくれた閲覧者に渡すことは国際学会ではよくあります)。


また、自分の研究だからといってすべてを理解できているわけではありません。質問されて答えられない場合は、わからないことを正直に伝え、逆に「Excuse me, I have a question....」「Actually, I am having a difficulty in....」のように逆に質問してもいいでしょう。興味を持ってくれたということは、自分以上の知識を備えている可能性もあるわけで、ひょっとしたら課題の解決につながるかもしれません。国際学会で知り合った先生から実験のトラブルシューティングを教えてもらい、あとで実験がうまくいったということもあります。


このようにして学会での出会いをきっかけに交流を深めていければ、気づいたらネットワークができていた、ということにもなると思います。「発表が本番、終わったらすっきり忘れて飲みに行こう」とか「質疑応答を完璧にこなさなければだめ」とか「閲覧者に教えてやるんだ」という考えを捨てて、「自分が得た実験(研究)の結果をありのままに伝えること」、「わからないことはわからないと言って詳しそうな人に出会えたら逆に教えてもらおう」という気持ちで臨むと自分の成長につながると思います。

No.1プレゼンターを目指す先生へ
「ひとつの研究テーマを継続し育てる楽しさ」

最初に指導医の先生からもらった研究テーマが、その後の自分のライフワークになることがあります。これ、面白いなと思ったら、自分でその研究を長い年月をかけて育て発展していけるように、過去の報告を徹底的に調べ、何がわかっていて何がわかっていないのかを整理できていると、論文もおのずとよいものに仕上がります。多くのノーベル医学・生理学賞受賞者が「20代、30代にやった仕事が評価された」と述べることがあります。ノーベル賞は飛躍しすぎですが、眼科の分野でも優れた研究者は若いころに将来につながるいい研究をしています。研究は大変なことが多いですが、研究成果がつながっていくと、5年、10年して自分の研究を振り返ると、証明した「点」同士がつながり「線」になりそれが「面」、そして「山」へと成長して新しい学術領域になっていくのは、うれしいことです(図6)。皆さんが今取り組まれている研究が将来高く評価される可能性がある、あるいはそうなるように研究テーマを継続して育てていく、という気概を持って取り組んでいただきたいと思います。

「眼光学を角膜失明疾患へ応用する」という目標をたてて、10年間一貫して継続した研究の例。当時は、「眼光学は角膜が透明」ということを前提にしていた。2011年に作った「角膜光学解析アルゴリズム」を用いて、いろいろな角膜失明疾患で再現性を検証し、主要な角膜疾患・角膜移植後の視機能評価に有効であることを証明した。1~2年でコロコロとテーマを変えず、ひとつのテーマを5年、10年と一貫して継続すると、新しい学術領域になっていくかもしれません。

 

(東京歯科大学市川総合病院 山口 剛史 先生ご提供)

著者山口 剛史 先生東京歯科大学市川総合病院 講師

<著者プロフィール>
山口 剛史 先生

東京歯科大学市川総合病院 講師

2002年慶應義塾大学卒業。国立病院霞ヶ浦医療センター眼科医長、慶應義塾大学病院助教、東京歯科大学歯学部助教を経て、2011年にハーバード大学に留学。2014年より現職。専門分野は角膜移植・白内障手術(角膜混濁など合併症のある白内障)、免疫学、眼光学。ARVOのプログラム委員の他、海外学術誌のEditorを務める。

※2021年3月現在

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