医療ナレッジ レジデント・ ナビ

No.1プレゼンター ~発表できるんです~

No.1プレゼンター ~発表できるんです~ 【発表編】 第1回

第1回 国内学会一般口演発表の基本とコツ

発表編では、実際にプレゼンテーションをする際のノウハウを、経験豊富な先生方から発表のタイプ別にご紹介いただきます。第1回となる今回は、多数の学会発表や講演の実績をお持ちである同志社大学生命医科学部の奥村 直毅 先生から、国内学会で一般口演発表をする場合のプレゼンテーションの基本とコツを教えていただきます。

著者奥村 直毅 先生同志社大学生命医科学部 教授
<著者プロフィール>
奥村 直毅 先生

同志社大学生命医科学部 教授

詳しいプロフィールはこちら

※2020年12月現在

皆さんこんにちは。同志社大学生命医科学部の奥村 直毅です。ほとんどの先生方に、研究成果を学会で発表する機会が訪れると思います。ここでは、学会発表での基本事項と、私が特に重要だと考えているポイントをご紹介します。

I. 一般口演発表の準備

学会発表の準備は、徹底的な事前の下調べと練習に尽きると思います(図1)。「徹底的」というところが重要で、これは自分の研究内容をきちんと聴衆に伝えるという、学会発表の本来の目的を果たすために欠かせません。

1.関連する研究の徹底的な調査

発表する研究に関連する文献を調べるところから始めます。指導医や先輩の先生方に教えていただくことも大切ですが、徹底的に自分で文献調査をすることは学会で発表するからには欠かせません。PubMedで検索し、論文を最低でも20~30報程度は読んでおきたいところです。それにより、①学術的な背景、②エビデンスの有無、③今後の課題などについて理解でき、自分の研究の意味や位置づけを明確に捉えることができます。はじめのうちは分野を俯瞰するためにもReview論文を読むのが効率的ですし、おすすめです。怒られるかもしれませんが、指導医の先生に教えていただく以上の情報が満載です。Review論文にはその分野の研究者であれば読んでおかないといけない論文が網羅されています。複数のReview論文を読むと、どこでも引用されているその分野の鍵となる論文を知ることができます。その分野で重要な論文を読んでいないと、発表も質疑応答も全てが微妙に変な感じになってしまいます。


例えば、私の研究対象である角膜内皮の再生医療のReview論文を調べるには、PubMedで「corneal endothelium tissue engineering」という検索ワードを入れて、画面左側の「Review」にチェックを入れて検索するだけです(図2)。あとは雑誌のインパクトファクター、著者、abstractなどを参考に、大事そうなReview論文をいくつかダウンロードします。英語の論文を20~30報読むというのは慣れないと大変かもしれませんが、急がば回れで、効率的な学会発表の準備に繋がります。

2. 伝えたいメッセージの絞り込み

ご自身の研究結果の中から最も伝えたいメッセージをなるべく1つに絞り込みます。まとめのスライドに大事そうに5-6個のメッセージ的なものが盛り込まれた発表もありますが、大事なことが伝わりません。発表を通して参加者に持ち帰ってほしいポイント(Take home message)は何かを意識するといいでしょう。伝えたいことが決まったら、そのことを際立たせる①背景の紹介、②研究結果の提示、③結果の示す意味や課題、と肉付けをしていきます。なんとなくスライドを準備して、最後になんとなく言いたいことがぼんやりと見えてくるわけではないことに注意が必要です。

3. スライド作成の基本と手順

一般口演の持ち時間は8分程度のことが多いので、スライドの枚数は10~12枚が適切です。スライドの基本構成は、タイトル、利益相反、背景、方法、結果、考察、結論、です。

 

効率的にスライドを作成するために私がいつも行っている流れをお示しします。最初に「目的」と「結論」のスライドから始めます。学会へ提出済みの抄録の内容とほぼ同じになるはずです。次に手元に揃っているデータを使って「結果」のスライドを作成します。続けて「結果」に対応する「方法」のスライドを作るといいと思います。ここまでは慣れるとあまり時間がかからずできる作業です。

 

最後に研究の意義を説明する「背景」と、結果から言えることと、今後の課題などを整理した「考察」のスライドを作ります。ここが一番大切なところです。「背景」と「考察」は、研究の価値や参加者の理解を高める上で肝となりますので、Take home messageが何であるのかを意識して、特に力を入れたい部分です。


スライドは、読みやすさとわかりやすさが重要です。文字は大きく少なめに、フォントの種類は日本語で1種類、英語で1種類にとどめるとすっきりします。タイトなスライドは、個人的には無しだと思っています。図や表を多用するとスライドがわかりやすくなります(図3)。一度スライドを作り終えたら全体を見直し、文章で記載しているものの、図や表にできる部分はないか確認するといいでしょう。

4. 学会の特性を知っておく

発表予定の学会の主な参加者層についても知っておくと伝わりやすいプレゼンテーションの準備ができます。学会の属性や自分が割り当てられたセッション名から、主な参加者の特徴がわかります。たとえば臨床眼科学会であれば、専門分野の違う参加者が集うので略語や専門用語をできるだけ使わない、など参加者に合わせた表現やスライド作成の留意点が見えてきます(図4)。

5. 時間厳守のための発表練習

時間内に発表を終えることは最低限のマナーであるだけでなく絶対的なルールです。スライドを作成したら、発表練習を繰り返します。言いたいことを早口で全て話すのではなく、ゆっくりと、はっきりした口調で時間内に話し終えられるように、セリフを練り、優先順位の低いセリフやスライドは削除します。練習の段階で、持ち時間より30秒くらい短く終われるようにしておきたいところです。また、このスライドで半分、このスライドで3分の2が終了、といった目安を設けておく方法も有効です。

6. 想定質問

ここでも関連文献をしっかりと読んでおくことが役立ちます。自分の発表に関連する研究について徹底的に調べ、現時点で何がわかっていて何がわかっていないのか、今後の課題は何かなどを把握しておくとかなり気が楽です。質問する側の先生方も、関連分野の常識を背景に質問されることが大半です。指導医の先生や先輩からの耳学問で挑むと、惨敗します。やはりしっかりとしたエビデンスやその分野のトレンドを文献から学んでおきたいところです。

II. 国内学会での一般口演の実際

いざ学会発表の本番を迎えたとき、どのような点を心がければいいか、私が研究室の学生に伝えていることを中心にご紹介します(図5)。

1. 発表直前の動き

会場には余裕をもって入り、演台やスクリーンの位置を確認し、PCやポインターを使ってみるなど、迷惑にならない範囲で確認しておくと安心です。壇上にいざ立ってみたらスライドを進めたり戻したりできないということもあります。壇上から会場を見たときの風景も予習しておくと緊張が少しほぐれます。


発表前に座長の先生やPCオペレータに、良き社会人としてご挨拶をしておきたいところです。発表終了後には、座長の先生、質問してくださった先生に話しかけてみてもいいでしょう。とても勉強になることを教えてくれることがよくあります。例え発表は不慣れでも、発表中だけでなくその前後も立派な社会人として振る舞うと格好いいですね。

2. 伝わる話し方

発表の目的は、発表を聞きに来てくださっている先生方に研究成果を伝えることです。上司や有名な先生が会場にいると、ついその方々を気にしてしまいがちですが、ご参加の多くの先生方に自分の研究をきちんと伝えることを優先すべきです。学会発表では、普通は演者が伝えたいことの5割くらいしか伝わっていないのが実情だと思っています。ですので、自分が言いたいことを少しでもわかりやすく伝えることを目標に、できるだけゆっくりとわかりやすく話す、重要な点は繰り返し説明する、図表を多用するなど工夫を凝らしましょう。

3.目線と姿勢

スライドは説明の補助具であり、発表の主体は自分である、という意識が大切です。決してスライドの説明者に甘んじるのではなく、スライドを活用してサイエンスを雄弁に会場に発信したいものです。


発表時の目線は、伝えたいことをしっかりと伝えるためにも、聴衆の先生方に向けたいものです。小さな会場であれば参加者と目を合わせるつもりで、大きな会場の場合は会場の席全体を見渡すイメージで遠くを見るようにして話すようにしています。くれぐれも、発表原稿にずっと目を落としたままであるとか、スライドの方を向いてしまい会場にお尻を向けていた、などということのないようにしてください。案外、練習しておかないと目線を発表中にコントロールするのは難しいものです。ポインターを使う場合は決してぐるぐると忙しく回したりせず、じっと図表を示すといいでしょう。

4. 質疑応答

学会発表のときに最も緊張する場面が質疑応答だと言っても過言ではないでしょう。格好良くではなく、サイエンスに誠実な姿勢で挑みたいところです。前述しましたが、事前の文献調査と準備が明暗を分けます。一度に複数の質問をされる場合、慣れないと緊張で忘れてしまいます。質問を遮ってもかまいませんので「1つずつ答えさせてください」とお願いしましょう。質問が聞き取れない場合は「もう一度おっしゃっていただけますか」と伝えたり、「先生のご質問はこのようなことでしょうか」と確認してもいいでしょう。もし質問の答えがわからない場合は、正直にわかりませんと言ってしまって大丈夫です。ご自身の指導医に助けてもらいたいときは檀上からお願いするのもありです。関連する文献を徹底的に読み込んでいたら、質問に直接答えられない場合でも、質問事項に関連した、会場の先生方に有用なお返事ができることも多いです(図6)。

No.1プレゼンターを目指す先生へ
「No.1プレゼンターに必要なのは準備と努力、才能は不要」

ここで皆様に学会発表のコツをお伝えしている私も、かつてはプレゼンテーションが苦手でした。研修医のときの初めての同門会での発表では緊張して声が上ずり、質問には見当違いの答えをする有様でした。その後も学会発表で質問に答えられず立ちすくんだことも一度や二度ではありません。


準備が大事であることを痛感した経験があります。大学院生の頃にARVOという国際学会で一般講演する予定がありました。国際学会での一般講演はすでに何度か経験していましたが、英語のネイティブスピーカーでもないのでと開き直って毎回原稿を読んでいました。ところが、自分の発表の前日に、ジョンズ・ホプキンズ大学のアメリカ人の若い医大生が緊張した面持ちで何度も何度もプレゼンの練習をして、上手く本番のプレゼンが終わった後にボスたちと大喜びしているのを見ました。大いに自分の姿勢を恥じて、すぐにホテルに帰り翌日まで休まず練習を繰り返し、原稿を読まずに自分のプレゼンを終えました。発表者としての心構えや覚悟を若い医大生から学んだのは大きなことでした。それ以来、国際学会であっても原稿を読んだことは一度もありません。もちろん、未だに事前に何度も練習しています。わざわざ誰にも今まで言いませんでしたが、我ながらかなり執念深い練習をしています。


私は、良いプレゼンターになる上で才能は不要だと思っています。学会発表は、正確に自分の研究成果を伝え、ディスカッションしてサイエンスを前に進めるためにするものです。俳優のような見栄えではなく、多少見栄えが悪かろうが、徹底した準備とサイエンスに誠実な姿勢に基づいたプレゼンこそが一番大切だと思います。ぜひとも徹底的に準備をしていただき、医学を前に進める力となる素晴らしい学会発表にチャレンジしていただけますと望外の喜びです。

著者奥村 直毅 先生同志社大学生命医科学部 教授

<著者プロフィール>
奥村 直毅 先生

同志社大学生命医科学部 教授

2001年京都府立医科大学卒業、京都府立医科大学眼科学教室に入局し、眼科研修医としてトレーニング。その後、眼科医師として診療・手術に従事。2010年京都府立医科大学大学院医学研究科博士課程修了。ライフワークとして角膜疾患の新しい治療法の開発に取り組んでいる。2020年より現職。

※2020年12月現在

おすすめコンテンツ

製品情報

製品情報

動画ライブラリー

動画ライブラリー

セミナー・ 講演会

セミナー・ 講演会

眼科と経営

眼科と経営

会員向けコンテンツの閲覧について

このコンテンツは会員専用コンテンツとなっております。閲覧いただくには会員登録が必要です。

医療関係者向けページのご利用は日本国内の医療関係者(医師、薬剤師、看護師、視能訓練士、医療事務・受付スタッフ、医学生)の方に限らせていただきます。日本国外の医療関係者、一般の方への情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。

会員登録済みの方

ユーザーIDを忘れた方

パスワードを忘れた方