メディカルシリーズブランドTOP > 眼科専門医に聞く > 第2章 視覚の不思議
「見えるのが当たり前」と日常では意識することも少ない器官ですが、目は実に繊細かつ精緻な仕組みで機能しています。
外部からのさまざまな情報を脳へ伝達すると同時に、身体の状態や感情までも表現する、目と視覚にまつわるお話を伺いました。
6. 「見る」と「見える」は別物
生まれてすぐの赤ちゃんも、目の構造はほぼ出来上がっているので、光や模様に反応することがわかっています。生後1歳の赤ちゃんでも0.1〜0.4くらいの視力があるとするデータも多くありますが、それで「見える」と言えるのでしょうか?
確かに、網膜には映像として映っていても、その意味を理解できていなければ、「見える」とは言い難いでしょう。「見える」とは、それが何であるかを脳が認識することなのです。
「見える」ためにはいろいろな体験を通して、色や形、その性質などを情報として脳が認識する過程が必要不可欠ですので、ぼんやりした視覚が脳にいい影響を与えないのは明らかです。
親御さんの中には、子供にメガネは可哀想、と言う方もいらっしゃいますが、視力は3歳くらいまでの間に急速に発達しますから。
視覚に異常があれば早いうちからメガネで矯正したり、さまざまな目の機能を使うような環境にしてあげることは、実はとても大事なことなんです。正確で質のよい情報が脳を育てる、という視覚の重要性に早く気付いて、適切な治療を受けてほしいですね。
7. 視力では測りきれない目力の秘密
眼科医も、患者さんも、視力がどれだけあるかということをとても気にしますが、視力は動かずに真正面で測ったそのとき一瞬の測定値でしかありません。でも実際の生活では、近づきながら、あるいは遠ざかりながら、または雑多な背景の中で、ときには単調な背景の中で、といった非常に変化に富んだ環境の中で、目はそれに適応しながらものを見ていますから、視力では測りきれない目力がさまざまな場面で発揮されているのです。
ところが、最近ではコンピュータ作業などの近業を長時間続けるといった、あまり目を動かさない生活環境にいることが多く、目が持つ多彩な機能を使わなくなってきました。
近くばかり見ているというのは、筋肉を収縮させたり弛緩させたりしてピントを調節する機能をあまり使わないということですので、ひいては調節機能の衰えにもつながってしまいます。目の機能は脳とも連動していますから、このような生活環境を続けていると、脳もさびついて物忘れが激しくなったり、それこそ狭い視野しか持てなくなってしまう恐れがあります。
8. 第六感を働かせて「診る」のが名医の条件
現代人の生活では、目の力も視力しか使わなくなってしまいましたが、人間には第六感と呼ばれる能力が本来備わっていて、見た感じの印象だったり、嗅覚や聴覚や触感というものを総動員して、物事や状況を把握してきました。それが生きるためには必要不可欠であり、重要な能力だったはずなのに、今は簡単な機能しか使わずに生活を送るようになってしまったため、端的な見方しかできなくなったように思います。
そして、その能力を失ったがゆえに、ものを紛失したことに気付かなかったり、あるいは人の気配とか殺気というものにも気付きにくくなったのではないでしょうか。
私たち医師も、そういう第六感を働かせて患者さんを診るのが名医の条件といえるでしょう。しかし現代では、医療機器や診断技術の進歩によって、数字や自動解析などの客観的データをもとに診断することが多く、自らの勘を働かせて診断する場面は少なくなりました。無限の能力でもある第六感を働かせて診る、見るということが、システム化された現代では軽視されがちですが、私はもっと重視されるべきことではないかと思っています。
9. キョロキョロ運動が脳を若返らせる
本来、ものを見るという行為は、自分が実際に身体を動かして見ることこそが重要です。ですから、家の中でテレビを観たり、携帯やテレビゲームばかりしているのでは、本当の意味でものを見ることにはなりません。外に出て、遠くを見たり近くを見たり、歩きながら景色を見たり、立ち止まって草花を見たり鳥を見つけたり、そういうさまざまな環境の中でものを見ることが、目の機能を良好に保つトレーニングとなり、さらには脳に刺激を与えることに役立つのです。
そういうことをしていると、今まで見えていなかったものがだんだん見えるようになります。たとえば、道端の花だったり、景色の変化だったり。いろいろなものが見えてくると季節感もわかるし、さらにいろいろなことに関心が出てくるものです。関心が出るということは脳を活性化しているということですから、ぜひお散歩をしてキョロキョロ目を動かしてものを見ることをお勧めしたいですね。
「視覚機能とサプリメント」
人間の脳で処理される感覚情報の90%近くは、目から入る情報だと言われています。視覚というのは情報を集めて脳に届けることで、たとえばきれいだなあと思う感情を育てたり、危険を察知したりする脳の働きを高める重要なものですから、発育段階の子供にとって目はとくに重要な感覚器官なのです。
もちろん大人にとっても、快適な視覚は生活に不可欠ですから、「視覚改善作用」をうたったサプリメントや健康食品は人気があるのもうなずけます。エビデンス(実証)のあるものも、ないものも、いろいろ出回っていますが、よく見極めて上手に利用するのはいいことです。ただ薬理作用のあるものは必ず副作用もありますので、食品だからといって安易にいろいろなものを過剰に摂ることは避けていただきたいですね。