メディカルシリーズブランドTOP > 眼科専門医に聞く > 第1章 目に関する常識・非常識
「見えるのが当たり前」と日常では意識することも少ない器官ですが、目は実に繊細かつ精緻な仕組みで機能しています。
外部からのさまざまな情報を脳へ伝達すると同時に、身体の状態や感情までも表現する、目と視覚にまつわるお話を伺いました。
1.目に現れる加齢の影響
目の表面は角膜という透明な膜で覆われていますが、年を重ねてくると、この角膜の上のほうが白っぽくなってきます。時々、「白くなっている部分がどんどん広がって、見えなくなったりしないでしょうか?」と不安になって診察に来られる患者さんがいらっしゃいますが、心配することはありません。これは、「角膜環(かくまくかん)」とか、「老人環(ろうじんかん)」とも言われる、誰にでも起こる老化現象の特徴的なものです。
そのほかにも、年を取ると皮膚がたるんでシワが寄ってくるように、結膜にもたるみが生じてシワができます。このシワが原因で異物感を感じたり、ときには結膜下出血が起きたりしますが、いずれも目の機能には影響しないので、心配は要りません。
目の機能としては、40歳を過ぎれば誰でも加齢によって水晶体の弾力性が低下し、ピントの機能が衰えてくるので、ものが見えづらくなってきます。これがいわゆる「老眼」の始まりで、水晶体も段々黄色みを帯びてきます。このような変化は徐々に起きているので気付きにくいのですが、若いころとは見ているものの鮮明さや色合いも違っているはずなのです。
2. 近視にまつわるウソ・ホント
日本は世界でも有数の近視大国です。遺伝的な要素が大きい、と私は思っているのですが、台湾にも多いというデータもあります。
まず、近視の種類には2つありまして、ひとつは「学校近視」と呼ばれるもので、これは20歳くらいになると近視の進行は止まります。それに対して、20歳を過ぎてもずっと近視が進むものが、「強度近視」あるいは「病的近視」などと呼ばれています。
どちらも日本人には多く、その理由ははっきりと解明されていないのですが、「学校近視」は環境因子によるという説もあります。たとえば、近業(近距離での読書やゲームなど)の多さが近視を助長する、有機リン農薬の使用量と近視患者数は比例する、などの説もあります。
一方の「強度近視」は、眼球の軸長が伸びるというタイプの近視で、日本人の8%にあると言われています。眼球の直径は普通約24?oですが、成長とともに少しづつ長くなり、26?o〜36?oくらいまで伸びてしまうので、網膜も薄くなり変性が起き、やがて視機能も低下します。しかも眼球が大きくなっても「眼窩(がんか)」という眼球が入っている穴の大きさは変わりませんから、窮屈になって歪みが発生し、ものが二つに見えるなどの不都合が起きてくるのです。
3. 目の疲労回復に役立つ知恵
「目は使い過ぎると悪くなるんですか?」という質問を受けることがよくあります。あまり意識している人は少ないと思いますが、目は開けている間はずっと使っているんですね。読書やパソコン作業をしていなくても、目は常に使っている状態ですから、集中的にパソコン作業をしたり、本を読んだり、ということを続ければ目は疲労するでしょう。でも、その程度の眼疲労で視力が落ちることはありません。目の疲れが回復すれば、以前と同じクリアな視界が戻ります。
目の疲労を回復させる一番の特効薬は、休ませることです。そして休ませるときには、遠くを見ることが重要です。近くを見るときはピントを合わせるために筋肉もレンズも緊張していますから、遠くを見ることでその緊張を解いてリラックスした状態にするのです。それは、目の調節機能を回復させるためにとても大事なことなんです。
私は視神経炎という病気をよく診るのですが、急性期には目の周りを冷やして炎症を鎮めます。薬のなかった時代には、暗くて寒い部屋に視神経炎の患者を寝かせておいたそうです。目を使わない状態にして休ませ、炎症を冷やして鎮静させるためですね。
ひとつの研究ですが、30分〜1時間のパソコン作業をした後に、10分間温湿布を目に当てて温めると、一時的に弱まった目の調節機能が回復することが実証されたそうです。これは手軽にできることですので、目の疲労回復に活用するのもいいと思います。
4. 目の耐用年数は120年
網膜や視神経は、脳と同じ中枢神経の構造ですので、「生まれたときの細胞をずっと使い続ける」ことが宿命です。それはつまり、病気や老化で神経細胞を失っても、新しく細胞がつくられないため、細胞数は年々減少していくということです。
100万本〜120万本あるとされている視神経の細胞数は、20歳以降は年に5千本くらいずつ減っていきます。これを単純計算すると、120歳でも50万本は残っていることになります。視神経細胞は50万本以下になるとほぼ失明に近い状態ですが、少なくても120歳までは見るのに必要な本数は確保できていることになります。ある研究によれば、人の最長寿命の理論値は125歳だそうです。
もちろん若いころに比べれば視神経細胞の総数は減っていますので、解像度の高い鮮明な視野は得られませんし、視覚機能の低下による見落としも増えてくるでしょう。でも、生まれてからずっと使い続けている目の機能が、最長寿命と同じだけの耐用年数があるというのは、驚異的なことだと思います。
5. ヘルシーエイジングのためのアイケア
先に述べた通り、目も加齢の影響を受けて年々見えづらさを感じるようになってきます。それは仕方がないことではありますが、目も肌や髪と同じように、日頃のケアやお手入れによって、健やかな状態を長持ちさせることができるのです。
それには、目の疲労を感じたら休ませることも大事ですし、同じ作業を続けて行うような集中的な酷使は避けるべきです。そして、目の乾きを感じたら細胞を活性させるような栄養を与えることも重要なケアですね。
目は神経系ですから、ビタミンB系の栄養が有効です。とくにビタミンB12は神経の保護作用が非常に強く、神経細胞の維持と活性を促進する薬理作用がありますので、そのように効果的な栄養成分が配合された目薬を使用するのもよいことだと思います。
医師が処方する医薬品は、ほぼ1種類の薬しか配合されていませんが、薬局で入手できるOTC医薬品(一般用医薬品)は、薬事法の厳しい規制はあるものの、薬の量も成分もつくる側が自由に配合できますから、セルフメディケーションとして利用するにはとても価値があるものだと思います。
「目は身体と心のバロメーター」
目を見れば、その人が今どういう状態にあるかがわかります。貧血や黄疸がひどくなると結膜の色に現れますし、眼底を見れば動脈硬化や糖尿病などを知ることもできます。でも、身体だけでなく心の状態まで目に表れるのがおもしろいところです。パッと見ただけでも、瞳孔が大きく開いていれば交感神経が優位に働いているアクティブな状態ですし、小さく閉じていれば副交感神経が優位のリラックスしている状態とわかります。ですから、初対面の人の瞳孔が小さいままなら、こちらに何も興味を示していないということですから、もう話すのはやめたほうがいいですね(笑)。