角膜の構造と修復のメカニズム

角膜の構造と修復のメカニズム日本大学医学部 視覚科学系眼科学分野 助教?ア元 暢 先生

角膜。一般的には黒目といわれています。傷がつきやすいけれども、その傷の修復のメカニズムを持っている器官が黒目、つまり角膜なのです。
角膜は透明な組織で、人の体の中である程度の機能を持って活動している組織・器官の中で透明という場所は角膜しかありません。とてもきれいな組織なのですが、その角膜を汚す、濁す病気、あるいは障害というのがいっぱいあるわけです。

角膜の機能と構造、創傷治癒について

角膜の働きは・・・

視覚情報、つまり光を目の中へ入れてあげることが角膜の働きです。ものをしっかり視覚情報として認識するためには、網膜で像を得る必要があります。角膜の働きとは、光の情報を網膜の上にぴったりと集束させる、屈折させることです。外から入ってきた情報というのは、角膜で1回屈曲いたします。さらにもう一度水晶体で屈曲して、網膜の上、網膜の中心部分の黄斑部という所で結像するということで、初めて私たちはものを認識することができるわけです。この視覚情報を集束させて網膜でぴったりピントを結ぶ状態。これを屈折といいます。

角膜の構造は・・・

角膜上皮の構造 角膜の構造(5層)

厚さ0.5mmの角膜は、表面から角膜上皮、ボーマン膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮という5層からなっています(図-2)。

角膜上皮というのは約5層からの細胞からなっています(図-1)。角膜上皮の特徴は、時間単位で新しい細胞が生まれ、時間単位で古い細胞が表面から脱落していくという非常に活発な新陳代謝があります。したがって、角膜上皮に傷がついても角膜上皮障害が起こっても、その傷は自然修復します。また角膜神経という、角膜の周辺部から中央部に向かってほぼ網目状に多くの神経が入ってきています。その終着点が角膜上皮です。そして知覚が鋭いか鈍いかを示す角膜上皮下神経叢(かくまくじょうひかしんけいそう)があり、この密度は指や歯の300倍から400倍ともいわれています。
ですので、少し傷つけるだけでもとても痛いと感じるわけです。これは角膜という繊細で透明な組織の構造を防御するため、大変理にかなっているといえます。

角膜の中身ともいえる角膜実質は、角膜を透明に保つために非常に大事な役割を果たしています。コラーゲン線維がその主な構成成分となっています。この角膜実質は角膜の厚さの9割以上を占めており、角膜の透明性を保つ肝といわれています。そして細胞がとても少ないことにより、傷の治りが遅い、創傷治癒が大変遅いという特徴があります。角膜実質の傷や混濁を起こしてしまうと治りにくくなるのは、これが理由です。角膜上皮より深い層、角膜実質の傷や障害は角膜にとって非常に危険なことといえます。

角膜内皮も透明性を保つ生命線といえます。角膜内皮には1層の細胞シートのようなものがあり、この細胞が能動的に絶えず活動することで角膜を透明に保ってくれます。

また、角膜は血管がないので、どこからか栄養を得なければいけません。特に角膜の内側の層に関しては、栄養を房水と呼ばれる目の中の空間から水(栄養)を汲み取っています。ただ、水を汲み取るだけでは角膜が水膨れを起こしてしまいます。汲み取った水の中で、余分な水分を前房と呼ばれる目の中の空間にまた戻してあげる。そういう役割を角膜内皮は果たしています。

角膜上皮の創傷治癒を阻害するもの、遅延させるものについて

角膜を取り巻く目の環境の異常、ドライアイ

角膜上皮の創傷治癒を阻害するもの、遅延させるものについて

目の環境の異常として、まず涙の異常、涙液の異常として知られていますドライアイ。その涙の分泌量・交換率(※-1)は、10代から60代、70代と加齢に伴い右肩下がりになります。その結果、ドライアイの有病率(※-2)というのは、50歳以上の男性で約4.3%、女性で約7.8%と高い数字を示します。ドライアイは、涙の量が少ない涙液減少型と、涙の質に異常があり涙がとても早く乾いてしまう蒸発亢進型の二つに分けることができます。実際の臨床上多いのは蒸発亢進型といえます。

角膜自体が正常でない場合
上皮幹細胞疲弊症、角膜輪部が働かない症状

薬剤アレルギー、ウィルス感染などが原因といわれています。皮膚粘膜に炎症、重症の薬疹を起こします。また角膜、結膜、まぶたに非常に強い炎症を起こします。強い炎症の場合、角膜と結膜の境にある角膜輪部が大きなダメージを受けます。角膜の表面、角膜の上皮に正常な細胞が供給されなくなり、その結果、角膜が白濁してしまいます。これが上皮幹細胞疲弊症です。

目の外からやってくるもの、点眼薬

角膜上皮創傷治癒を遷延、遅延、阻害させるものとして、外からやってくるものとして、点眼薬・目薬のことについても取り上げたいと思います。目薬によって角膜の上皮が治らないことを薬剤性の角膜上皮障害といいます。目が疲れるから疲れ目の薬が欲しい、それから目がかゆいのでアレルギーの薬が欲しい。そして目やに・充血もあるので、炎症を抑える薬が欲しい。さらに目が乾くから乾き目の薬が欲しいなど、いろいろなことをいわれます。患者さんのニーズを満たすためには、いろいろなお薬を使わざるを得なくなります。角膜を傷つけたりする強い作用がある薬ではありませんが、4〜5種類も使いますと、やはり目はどうしても傷つきやすくなります。

外傷、薬品についても取り上げたいと思います。「油がはねました」「薬品が入りました」と相談に来られる方も多いと思います。薬品が目に入った場合は、洗い流すのが一番です。15分(薬品のラベルを参考に)ほど流水で洗ってもらう。その結果、痛みがなければ大きな心配はいりません。ただし、洗っても痛みが残っているという場合は、やはり眼科に行くことを勧めてください。角膜に影響のある化学薬品というのは世の中にあふれております。アルカリ性、酸性、中性、いわゆる有機性溶媒です。一番危険なものがアルカリ性です。消石灰、セメント、カビ取り剤に入っている水酸化ナトリウム。塩素系の漂白剤に入っている、「危険」と大きく書かれている次亜塩素酸ナトリウム。こういったものは、特に目にとって、角膜にとってすごく危険ですので、これは皆様ぜひ知っておいてください。

角膜内皮について

内皮細胞

角膜内皮は生体内では増殖しません。その細胞数は加齢に伴い減少する一方です。角膜内皮に障害が及ぶと、内皮細胞は細胞の性質を変え、細胞一つ一つが大きくなることで傷を防ぐ作用を持っています。したがって細胞の数に着目するのです。たとえば、10代では単位平方ミリメートル当たり3,400あるものが、80代では2,700まで減ります。1平方ミリメートル当たり500個になりますと、角膜のむくみが全く取れないということが起こります。少々の角膜の傷・欠損・角膜内皮の欠損であれば、周りからきれいに細胞が埋めてくれます。大きな欠損があった場合、細胞は不整な形のままそこを埋めようとし、障害が残るということが出てきます。
角膜内皮障害に対する外科的な治療としては、角膜移植しかありません。

Take Home Message

ぜひ、これだけは覚えておいていただきたいというものを、4つ挙げておきたいと思います。

imgChangeJpg

◎角膜は直径が1.2cmで厚さが0.5mmしかない非常に小さな組織です。
◎この小さな組織は、その中で透明性と視機能を保つために、非常に繊細で微細な構造をしています。
◎角膜は目の表面にあり、傷つきやすいわけです。そのために自分で治ってくる力、自己修復能を持っています。ですから、点眼薬の使い過ぎなどにより自己修復能を阻害しないということがとても大事です。
◎角膜はありとあらゆる障害にさらされる。それだけ危険性も伴っている臓器です。