イヌワシの目の仕組み・不思議:1,000m離れた獲物を見つけて捉える視力の良さ

1,000m離れた獲物を見つけて捉える視力の良さ イヌワシの目

空高くから地上を移動する小動物を見つけ、素早く捕らえることができるイヌワシ。その目のよさの秘密は網膜に存在するたくさんの視細胞。網膜には視力に大きく関係する中心窩(ちゅうしんか)という組織があります。

 

ヒトは、中心窩に1平方mm当たり約20万個の視細胞を持っているのですが、イヌワシはおおよそ7.5倍の約150万個の視細胞を持つといわれています。また、この網膜の感度の高さに加えて、イヌワシは同時に2つのものをはっきりと見ることができます。ヒトは視線が一点に集中すると、それ以外の周りが見えにくくなってしまいますが、イヌワシは前を見て飛んでいるにもかかわらず、地上の小動物を見ることができるのです。

イヌワシとヒトの中心窩の違い

また、イヌワシの見る世界は色彩も豊かです。網膜のもう1つのはたらきは色を判断することですが、特に網膜にある、錐体(すいたい)細胞が色覚に大きく関係しています。ヒトは赤、緑、青、それぞれの光に反応する3種類の錐体細胞しか持っていません。そこで、ヒトは赤、緑、青の3つの色を組み合わせることで、すべての色を作り上げているのです。鳥類はこれら3種類の錐体細胞に加えて、紫の光(紫外線)を感じることができる4番目の錐体細胞を持っています。残念ながら、ヒトは角膜や水晶体で紫外線が吸収されるため、紫外線を見ることができません。このように、ヒトより多い4種類の色の光を感じることのできる鳥類は、私たちと異なる世界を見ている可能性があります。

4番目のすい体細胞を持つイヌワシ

紫外線が見えると何が見える?
紫外線だけを通すフィルターを付けてヒマワリを撮影しました。ヒトの目ではわからない花の模様がハッキリと捉えられています。

写真提供:伊知地国夫 氏(伊知地国夫科学写真工房)/撮影協力:日本科学未来館

そして、顔の横に目がある他の鳥と異なり、イヌワシの目は正面に向かって付いているため、両目で一点を正視することができます。その代わり、そのままでは後ろの様子がわかりません。その分、首が180度回る仕組みになっています。イヌワシの鋭い両目で睨まれたら多くの小動物は震え上がることでしょう。イヌワシはまさに、空のハンターというにふさわしい目を持っているといえます。

引用文献
須藤明子:イヌワシ大解剖,BIRDER,2月号,p.26,文一総合出版(東京),2006
山本靖夫:イヌワシを追って,p.19,神戸新聞総合出版センター(神戸),1997
ガリレオ工房編:びっくり、ふしぎ写真で科学3,pp.14-15,大月書店(東京),2003